一級建築士制度を考える・・・B
前回は、元請けと下請けの力関係とういテーマをもとに建築家と構造設計者の関係を書きました。
今回は、構造設計という仕事について詳しく書いていきます。
「一級建築士制度を考える」
B.構造設計という仕事があることを知ってましたか?
街を歩いていて、「あの建物かっこいいなぁ」と思った経験が誰にでもあると思います。
その「かっこいい建物」を計画・設計しているのはいわゆる意匠設計者(建築家)です。デザインが優れている建物は、建築系、アート系、ファッション系の雑誌に掲載されたりします。このような雑誌を見て将来「建築家になりたい!」と思う若者は多いのではないでしょうか。建築家も、雑誌に掲載することで営業効果が絶大なので、必死に売り込もうとしている方々も多いと思います。
建築家が意図したデザインの建物を、現実に建設できるようにするには構造設計者による構造的な検討が必要となります。その検討の結果、実際に建設するためにデザインの変更を余儀なくされる場合もあります。
デザイン→構造検討→変更→デザイン→構造検討→変更→デザイン→構造検討→決定。
といったサイクルで設計は行われます。奇抜なデザインの「かっこいい建物」ほど、このサイクルが多くなるのが一般的です。
これを見て、みなさんはどう感じるでしょうか?
意匠設計と構造設計が分業であるということに疑問を感じるのはわたしだけでしょうか?
建築家が作りたいデザインを提案しても、それが実際に建設できるのかどうかは構造検討してみないと分からない。分からないから、何度もこの過程を繰り返すのです。当然ながら、作業しただけ費用もかかります。非効率的な作業だと思いませんか?
ここで、前回書いた意匠設計者と構造設計者の関係性を思い出してください。
意匠設計者は元請で、構造設計者は下請けです。つまり、意匠設計者も当然ながら無駄に構造設計料を支払いたくないですし、効率は求めているので、このサイクルをできるだけ少なくしたいと思うでしょう。ただ、そう思ってもこの段階で決定権は下請けである構造設計者にあります(ないとしたら今回の事件の予備軍だと思います・・)。提案されたデザインを早く構造的に成立するようにしろと言われても、できないものはできないと言わざるを得ないことが当然あるのです。
構造設計者:「ここをこのように変更してもらえれば構造的に成立するでしょう」
意匠設計者:「それでは、このデザインの意味がなくなる」
構造設計者:「では、ここに柱を設けて検討してみましょうか?」
意匠設計者:「そこには、柱は設けたくない」
・・・
こんなやりとりが、日本中のあちこちで行われていることは容易に想像できます。。
デザインするときに構造的な計画ができていれば、このようなやりとりを最小限にできるのですが、前回書いたように構造を理解できている意匠設計者の少なさがこのようなことを引き起こしていることは、経験上否定できません。
つまり、構造設計という仕事は、与えられたデザインをただ検討、計算して成立させる仕事ではありません。わたしが思う建築とは、構造的な理解があってはじめてデザインができるものだと思っています。学生時代から、そのことは信じて疑ったことがありません。意匠、構造お互いの承知のうえで非効率な仕事を行っているのであれば、それはそれでしょうがないのですが、この連載の最後に書こうしている「建築設計を夢のある仕事へ・・・」という目標にはほど遠いものになります。
つまり、構造設計という仕事が下請けから脱却したときに、極めて大きなポテンシャルを有する仕事であることは間違いないのです。
しかし、耐震偽装事件におけるアンケートに、
「構造設計という仕事を知ってましたか?」という質問に対する回答は、大多数が知らなかったという興味深い結果があります。
つまり、世の中は「見た目重視」でこれまで構造設計者を見ていませんでした。または、見ようとする気があっても隠されて見えなかったとも言えるでしょう。構造設計者の存在は、世の中に出る前に何かに隠蔽されてしまっているのです。そのことは、次回以降建築とメディア関係性を通じて詳しく書いていきます。
構造設計という仕事が、人命に大きく影響することが今回の事件で理解されたことは、ある意味不幸中の幸いだったと思っています。
日本は、世界一の地震国でありながら「衣・食・住」の「住」に対する認識が偏っています。
これは、やはり建築というものの教育が間違っていたと言わざるをえないと思っています(東京都知事が、東京の都市景観を「ゲロみたいだ・・」と例えましたが、私も同感です)。また、皮肉ですが日本が経済的に豊かな国であることも少なからず影響していると思います。
わたしは、「住」に対する認識を改善させるためにも、構造設計という職業の認知度を上げる必要があると痛感しています。
現時点において、構造設計という仕事はどのようなものなのか?
簡単に言うと、
・意匠設計の下請け
・意匠設計者がデザインした建物を構造計算する
・計算書を作る
・図面を書く(構造図、配筋図・・)
・現場で検査をする
・意匠事務所が、設計料の10〜20%程度の報酬を構造設計料として支払う
・・・
ちょっと現実的に書きましたが、これを見て魅力を感じる人がどれだけいるでしょうか?
はっきり言って、これでは子供達が夢見るような職業には永久にならないでしょう。
まず、
「下請」ではなく「元請」になるための制度作りが必要です。そうすることで、意匠事務所が構造事務所に報酬を支払うのではなく、クライアント(依頼主)に対して、適切な報酬を請求できるようになります。ここが、一番重要だと思います。
あと、
「計算」、「計算書」という言葉自体に嫌悪感を示す人が多いので、呼び名を変更してもよいでしょう。
これでも、まだ子供が夢見る職業には程遠いですが、そうするための土台作りにはなると思います。
他にも建築設計業界全体で変えていかなければならないことがたくさんありますが、それは次回以降で書いていきます。
最後に、構造設計者の置かれた立場について非常によく理解できる本があります。
「ルイスカーンとの18年」(という題名だったと思いますが・・)という本です。
これは、世界的に有名な建築家ルイスカーンの代表作である建物を構造設計した、オーガスト・コマンダントが書いた本です。これを読むと、今も昔も構造設計者の立場は変わってないんだなぁと思います。
興味のある方は、是非一読ください(こちらから購入できそうです)。
次回は、意匠設計者(一級建築士)の構造に対する知識について、試験制度の問題点も含めて書いていきたいと思います。
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