前回は、建築士と建築家の違いについて書きました。
今回は、「建築家」を取り巻く仕事形態についてもっと掘り下げて書いていきたいと思います。
「一級建築士制度を考える」
2.元請と下請けの力関係
耐震偽装事件で「建設会社からコスト的なプレッシャーを受けた・・」というA氏の発言がありました。このことから、建設会社以外に設計事務所、不動産会社、コンサルタント会社といろいろな会社の名前があがりました。
これらの会社の相関関係は複雑なので、ここで詳しく説明するのは割愛しますが、重要なのは、下請けの構造設計者が元請けからプレッシャーを受ける立場にあったということが世の中に知られたことに大きな意義があったと思います。当然ながら、元請けと下請けの関係は建築業界に限らずどのような業界にもある関係です。ただ、今回ほどの事件に至らないのは、その業務自体に直接人命に関わる可能性が低いからだと思われます。(個人的には、年間3万人もの自殺者がいる現状から判断して、間接的にはどの業種にも大きく影響があると思いますが・・・)一般的に、構造設計者の元請けになるのはどこだと思いますか?この事件のように建設会社となることもありますが、大多数は設計事務所です。以前ブログでも取り上げましたが、世の中の設計事務所の約90%は意匠・計画系の設計事務所です(以後、意匠事務所と記載します)。残りの10%が、構造設計事務所、設備設計事務所、その他各種専門分野の設計事務所などということになります。もちろん、「建築家」というのは意匠事務所の代表\などをされている方が多いです。
では、意匠事務所の元請けはどこになるでしょうか?
これは、建物の種類によって様々ですが、個人、不動産(デベロッパー)、法人(企業)などです。
これらの場合は、請負というよりは業務委託という形態になりますが関係性としては元請け下請けと同様といえます。
つまり、意匠事務所が仕事を取ってくるわけです。
社会一般では、仕事を取ってくる者が一番エライということになります。
わたしは、このことに反論はしません。仕事を取ってくるということはすごいことですし、仕事を取るための初期投資、労力は大変なものだと思います。
まとめると、建築設計の仕事形態は、
依頼主
↓↑
意匠事務所
↓↑
構造事務所(設備事務所)という指揮系統に基づいて基本的に行われます。
(余談ですが、設計が終わって施工が始まるとこの系統図に施工会社(ゼネコン、工務店など)が加わりますが、施工会社は本来金銭的にも中立なはずなのですが、設計者に対して「先生」という習慣があります。わたしは、この習慣が嫌いですが、この習慣の根底にも建築業界の悪い部分がたくさんあると思いますので、次回以降詳しく考えてみたいと思います。)
ここで、問題なのは、
依頼主
↓↑
構造事務所(設備事務所)となるケースがほとんどないということです。
設計の打ち合わせは、大部分を依頼主と意匠設計者で行います。打ち合わせに参加する人数が多ければそれだけ費用がかかるからです。大規模建築であったり、金銭的に余裕のある建物では例外的に構造設計者や設備設計者が同席することもありますが、あくまでも例外です。それでは、依頼主は、建物を設計するにあたって何を意匠事務所に求めているのでしょうか?一生に一度あるかないかの出費を覚悟してどのような建物を希望しているのでしょうか?
意匠に対しては、デザインや外観や内装仕様などいろいろありますが、設計を統括する立場として「低コスト」を一番重要視されるケースが多いと思います。
構造に対しては、漠然と安全性。設備に対しては、照明、キッチン、バスなど生活のインフラとなる部分なのでいろいろとあるでしょう。
つまり、構造に対しては具体的な要望がないのです。。なので、依頼主自身も構\造設計者と何を打ち合わせしたらよいのか分からないはずです。「安全な建物にしてくださいね」と言われて、「はい」と答えただけの打ち合わせもありました(笑)。
ここで、極端な質問をします。
1.耐震性能について、建築基準法をぎりぎり満足するように設計すると、20万の節約ができる。2.耐震性能\について、建築基準法は十分満足できる設計だが、20万の増額となる。
耐震偽装事件以前であれば、9割の方が1番を選んでいたはずです。事件後の今でも、法律は満足しているんだからと、1番を選ぶ人もかなりいると思います。
結論から言うと、1番を選ぶことは勧められません。それは、建築基準法がどのようなものなのか?ということからお話する必要があるので、それについては次回以降で取り上げていきたいと思います。
問題なのは、意匠事務所が1番を選ぶことのリスクをはじめから正確に依頼主に伝えていなかったことだったとわたしは思っています。
元請けである意匠事務所は、せっかく取れた仕事を逃すわけにはいかないので、依頼主に対して印象の悪いことは極力言わないようにするでしょう。あまりにも、ぎりぎり設計なので構造設計者が意匠設計者に対してもう少し余裕をみたほうが良いと提案しても、依頼主までその提案が届くことは多くないと思います。
下請けである構造設計者は、仕事をもらう立場なので当然意匠事務所ができるだけ望むように構造設計をしようと努力するようになってしまうのです。なので、依頼主のために構造設計を行うという認識が薄れてしまうということになります。
また、要望は当然ながら依頼主の要望でないといけませんが、意匠設計者の好みだけの要望というものがかなりあります。意匠設計者の言うがままに構造設計をしたところ、依頼主から設計変更依頼が発生したりすると構造設計者にも不利益を被ることになります。
そもそも、構造設計とは建物の屋台骨を設計する仕事です。いわば、構造は人に例えれば骨や筋肉に相当するわけで意匠とは表裏一体でなければならないと思います。そんな、意匠的にも重要度の高い設計なのに意匠設計者がよく分かっていないのが何よりも一番の問題であると思います。一級建築士の意匠設計者であってもこのことは同様です。構造設計を理解している意匠設計者は、本当に少ないんです。。構造設計は外注するものと決め付けている若者が多いことには、将来の建築設計業界に対する不安を感じます。建築設計は魅力のあるやりがいのある仕事だと思います。ですが、楽しいことだけしていては具体的な技術はいつまでも身につきません。
スポーツ選手は、筋トレをして日々鍛えないと、怪我しやすくなったり、体力を維持向上できません。好きなことをしていくために必要なことは、やらなければならない義務なのです。
ある意味、構造を理解することは頭の筋トレのようなものだと思います。わたしは、意匠設計者が仕事上で主導権を持っている限り、構造を理解することは義務だと考えます。
耐震偽装事件以降のアンケートで分かった以外な事実があります。
世間一般では、建築設計業務が分業だということを大多数が知らなかったという事実です。
このことについては、現在の建築業界の欠点をよく表していることなので次回以降詳しく書いていきます。ざっと書いたつもりでしたが、結構長くなってしまいました。。意匠が主導権を持っていて、構造は下請けの立場であるということがより具体的にわかってもらえればとりあえずは良いかなと思います。
次回は、下請けである構造設計とうい業務について詳しく書いていきたいと思います。
追伸:
意匠設計者について、批判的な表現を多く使いましたが、当然ながら素晴らしい意匠設計者もたくさんいらっしゃいます。ですが、素晴らしい意匠設計者の存在を考慮しても、意匠設計者全体的には構造に対する無知を言わざるを得ない状況であると強く感じているので、あえて批判的な表現を用いています。付け加えてお断りしておきます。
追伸2:
ここで、設備設計については、電気、機械分野出身者が多く一級建築士を取る設計者も少ないので、ここでは取り上げていません。建築にとって設備は、人に例えると機能を司る臓器や神経に例えられる重要な部門です。意匠(構\造)とも当然ながら密接に関わります。




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